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中国における集団的労働紛争の現状 (3)
发布时间:2013-10-10

Ⅲ 労働紛争に関する労働法制の状況 
 
1 労働調停仲裁法
 
(1)調停
労働紛争の解決手続として、2008 年 から「中華人民共和国労動争議調解仲裁法」(以下、「労働調停仲裁法」という)が施行され、同法では、調停(「調解」)と仲裁の解決手続を定められている。調停は、企業内に組織される調停委員会を通じた協議・和解のシステムであり(ただし、企業内に調停委員会が組織されていない場合には、地域に組織された人民調停組織や行政機関等が設置した調停機構を利用する)、仲裁申請の前に調停を行うことが原則とされている(労働紛争における調停前置主義)。企業内の調停委員会は、労働者代表と企業代表で構成され、前者は労働組合メンバーもしくは労働者の推挙する者であり、後者は企業の責任者が指定した者である。
 
(2)仲裁
仲裁は、労働行政部門代表、労働組合代表、企業側代表(政労使)で組織される労働紛争仲裁委員会(以下、仲裁委員会という)の下で行われる紛争解決手続である。労働紛争の解決は、原則として、三者構成メカニズム(「三方機制」)による共同解決を目指している。ここでは、労働組合代表は労働者側の代表と位置付けることができる。ただし、実際の紛争解決手続としての仲裁は、三者構成の仲裁委員会の下に設置された仲裁機構が実務を担当しており、具体的な仲裁手続を担当するのは仲裁員である。そして、実務を担う仲裁機構は、現実には、労働行政部門の一部であり、仲裁員についても、一定の資格要件が求められるが、その多くは、労働行政機関の公務員である。したがって、実質的には行政の役割が顕著な手続であり、三者構成のうち労使が現実的な役割を果たす余地は小さい。
 
(3)集団的労働紛争の手続
そして、「労働調停仲裁法」では、「発生した労働紛争に関係する労働者が 10 人以上でかつ共同で申立をする場合、その中から代表者を選定して、調停・仲裁あるいは訴訟活動に参加させることができる」としている。同規定は、これを集団的労働紛争と定義しているわけではない。むしろ、手続的には、10 人以上の集団的労働紛争に関して、特別な手続を用意しているわけではなく、優先的に迅速に対応することを定めるのみである。基本的には、個別的労働紛争と同じ枠組で処理することを前提としており、10 人以上の集団の労働紛争を個別的労働紛争の集合体として捉え、その代表者(場合によっては労働組合も)を通じて、共通の解決手続の中で解決を図ろうとしているものである。なお、1993 年労働部公布の「労動争議仲裁委員会弁案規則」(労働紛争仲裁委員会事案処理規則)では、30 人以上の「集体労動争議」事案に対する特別審理手続が定められ、3 人以上の仲裁員で組織される「特別仲裁廷」を組織し、労働者代表と企業代表による協議を通じた自主的解決を促した上で、協議が不調に終わった場合には、仲裁裁決を出すこととし、通常の紛争は 60 日以内とされている仲裁の期限を 15 日以内とするなど、通常の手続とは異なり、迅速で柔軟な解決を図る手続が用意されていた。かかる規定に基づき、各地方の仲裁委員会は集団的な労働紛争の解決に当たっていたが、2009年にこの規則は廃止された。そして、同日より新たに「労動人事争議仲裁弁案規則」が施行され、同規則は、「労働調停仲裁法」と同様に、10 人以上の労働紛争について、仲裁委員会が優先して解決に当たることを規定しているものの、特別の手続規定は置いていない。 
 
2 労働法・工会法
 
(1)労働法
労働協約をめぐる労働紛争解決手続について、1995 年施行の「中華人民共和国労動法」は、紛争を 2 つの類型に分けて定めている。第 1 に、労働協約の締結に起因して紛争が発生し、当事者が協議して解決できないとき、現地の人民政府労働行政部門は関係者を組織し協議して解決することができる。第 2 に、労働協約の履行に起因して紛争が発生し、当事者が協議して解決できないときに、当事者は、仲裁委員会に仲裁の申立を行うことができる。大雑把にいえば、前者は利益紛争であり、後者は権利紛争ということができる。
前者について、2003 年制定の「労働協約規定」(「集体合同規定」)では、「団体交渉(「集体協商」)の過程の中で紛争が生じ、当事者双方の協議で解決できない場合、当事者一方あるいは双方は、書面により労働保障行政部門に協調解決の申請をすることができ、申請がない場合でも、労働保障行政部門が必要と認めたときは、協議して解決することができ」、労働保障行政部門は、労働組合と企業組織の三方面(政労使)の人員を組織し、共同で労働協約紛争の協調解決を行うとしている。また、履行過程における紛争については、同様の規定が 2008 年施行の「中華人民共和国労動合同法」(以下、「労働契約法」という)や「工会法」にも定められており、当事者は、労働協約所定の権利等が実現されていない場合に、その履行を求めて仲裁の申立ができる。
このように、集団的労働紛争のうち、労働協約の履行過程におけるもの(権利紛争的なもの)は、仲裁委員会の解決手続に委ねられる場合がある。他方で、労働協約の締結に係るもの(利益紛争的なもの)は、労働行政部門等が労使と協調して解決するとされているが、具体的な手続は明確ではない。
 
(2)工会法
権利紛争的なもの(例えば、未払い賃金の請求)であっても、仲裁の申立をしないまま、労働者が集団で行動を起こすことも多い。最近の中国で発生する集団的労働紛争(例えば、集団的な労務提供の拒否とデモ活動等)には、利益紛争だけでなく、権利紛争の要素を含むものも少なくない。こうした行動は、労働組合等の意思決定に基づくものではない。
そして、「工会法」では、ストライキの訳語にあたる「罷工」という文言はないが、事実として発生する「停工」(操業停止)や「怠工」(怠業)という事態に対して、解決手続を定めている。すなわち、「企業に『停工』・『怠工』事件が発生したときは、労働組合は従業員を代表して、企業あるいは関係する部門と連携して、従業員の意見と要求を伝達し、かつ解決の意見を提出しなければならない。従業員の合理的意見に対し、企業はこれを解決しなければならない。労働組合は、企業と協力して、正常な生産秩序を迅速に回復させるべきである」と定めている。この規定は、企業内等での調停や仲裁委員会の仲裁と異なり、現実に発生する「停工」等の事件に対して、労働行政部門による解決の枠組を定めたものである。ここで、労働組合は、労働者の代表者としての役割を期待されつつ、一方では、労働者と企業・関係部門の調整役として、「従業員の意見と要求」の実現だけでなく、「正常な生産秩序の回復」を目指して、紛争の調整に協力するものとされている。そして、実際には、こうした規定に基づき、労働行政部門が中心となって、集団的労働紛争の解決を行っているが、具体的で詳細な規定を欠いているため、基本的にはケースバイケースの解決とならざるを得ず、企業としては、行政の場当たり的な対応に委ねるほかない。このように、現状では、労働条件等について、平等な協議を通じて労働協約を締結することが規定され(「労働契約法」)、企業による正当な理由のない交渉拒否を禁じ(「労働協約規定」、「工会法」)、交渉担当者になる可能性のある労働組合主席等に対する身分保障を強化する改正がなされているものの(「工会法」等)、具体的な団体交渉に関する規定や、団体交渉が不調に終わった場合の争議行為を含めたルールが明確にされていない。また、集団的労働紛争の解決における労働組合の法的地位も、労働者の利益代表なのか、労働者と企業との間の調整役なのか、それほど明確ではない。
 
 3 人社部規定・地方規定
 
(1)「労動人事争議仲裁弁案規則」と地方の取り組み1993 年労働部の規則では、30 人以上の「集体労動争議」事案に対する特別審理手続が定められ、通常の手続とは異なり、迅速で柔軟な解決を図る手続が用意されていた。かかる規則に基づき、各地方の仲裁委員会は集団的な労働紛争の解決に当たっていたが、2009年に同規則は廃止された。そして、同日より「労動人事争議仲裁弁案規則」が施行され、同規則は、10 人以上の労働紛争について、仲裁委員会が優先して解決に当たること(また、2010年公布の「労動人事争議仲裁組織規則」では、10 人以上の集団的紛争については、3 名の仲裁員で仲裁廷を組織するとされる)を規定しているものの、特別の手続規定は置いていない。とはいえ、実際に集団的労働紛争は発生している。そこで、多くの紛争が発生する地方では、独自のルールの下で、紛争の解決に取り組んでいる。例えば、広東省では、リーマンショックを契機とする世界的不況の煽りを受けて、地域内で企業の操業停止や倒産が相次いだ。そこで、2008年に「停産、倒閉企業集体労動争議案件処理規範指引」を公布し、労働紛争仲裁機構において、具体的な解決を図る指針を示している。具体的には、労働者が団体的な行動を起こした場合(「群体性事件」)、仲裁機構は 6 時間以内に地方政府等に報告し、事件の収拾後 2 日以内に書面で状況等を報告することとされている。また、集団的紛争の解決には、仲裁委員会の政労使三者が共同で協議し表決するとされる。
 
(2)「企業労動争議協商調解規定」の制定上記のような紛争解決手続は、基本的に紛争に対する「事後的介入」の方式であり、いったん紛争が発生し、激化した場合には、その解決は容易ではない。
そこで、人力資源・社会保障部(以下、「人社部」という)は、「企業労動争議協商調解規定」(「企業労働紛争協議調停規定」)を 2011 年に公布(2012 年に施行)した。同規定は、企業内の調停委員会の調停手続について詳細を定め、さらに、企業は「労資双方の意思疎通・対話のシステム(「労資双方溝通対話機制」)を確立すべきであり、労働者は調停委員会を通じて企業に対して労働契約の履行等の問題について要求を提出することができるとしている。そして、労働紛争が発生した場合、一方当事者は他方
当事者との面談等の方式を通じて協議して解決することができ、協議が一致したときには、書面の和解協議書を作成し、当事者はこれを履行すべきである。協議が不調に終わった場合には、調停委員会等に調停を申請することができ、また、仲裁委員会に仲裁を申請することもできる。
さらに、企業内に調停委員会を設置し、労働紛争の予防工作を行うこととし、調停委員の職責として、労働紛争の予防・警戒が挙げられている。つまり、同規定は、企業内の協議や調停を通じて、企業内での紛争の解決と予防の機能を強化することを目指している。さらに、同規定は、「企業が本規定にしたがって調停委員会を設立せず、労働紛争あるいは集団性事件(「群体性事件」)が頻発した……場合」、法により処分するとされており、同規定の制定の背景に、集団的労働紛争の予防という側面もあることが指摘できる。
もともと 2008 年施行の「労働調停仲裁法」は、ほとんどが仲裁に関する規定で占められており、実際にも、中国の労働紛争解決システムは、仲裁を中心として構成されていたといえる。人社部は、こうした事後的解決に加え、企業内における協議と調停に関する規定を整備・強化することにより、労働紛争をできる限り早期に企業内で解決し、労使関係の安定化を図ることを意図していると考えられる。また、労働組合と企業との団体交渉が十分に機能しない現状において、企業内における協議・調停の制度化を促進して、労使の利益調整システムとして代替的な機能を期待していると思われる。
 
Ⅳ 企業の有るべき対応
 
既に述べたように、中国では、労働者の利益を代表する主体として、労働組合が機能していないうえ、利益紛争を調整する必要がある。そうした状況を踏まえ、中国では、農民工による集団的労働紛争に対しては、事後的な解決手続の整備から、より紛争の「上流」で未然に予防する取り組みを促進している。また、調整の仕組みも、調整的性格の強い「調処」(当事者の協議を促進する「あっせん」のような手続)という手続で、迅速かつ柔軟に紛争に対応しようとする議論が中心になりつつある。こうした企業内での協議や調停の強化の傾向は、仲裁委員会や人民法院における労働紛争の受理件数の急増への対策という側面もあり、同時に、これまでの調停や仲裁が十分に機能していない事態を踏まえたものといえる。
そうした中で、現在の中国では、日常的な労使コミュニケーション制度(「労資対話」・「労資溝通」)の活性化を通じて、労働紛争の発生ないし激化の予防を図る動きがみられる。例えば、第 1 に、最高管理層と労働者の代表者との交流会(「溝通会」)であり、CEO をはじめとして各部門の責任者と従業員代表が意見交換を行い、従業員の質問等に最高管理層が回答するなどしている。第 2 に、中間管理層の者と従業員との対話集会であり、毎月各部門で座談会を開催している。第 3 に、生産ラインの管理者とそのラインの従業員との意見交換であり、毎週定期的に話し合いの機会を持って、当該管理者に決定権限
がない事項についても、上層部への取り次ぎなどを行っている。特に、新世代農民工の場合、企業に対する要求も多様化する一方で、労働組合のコントロール外で突如として労働紛争が激化する傾向がある。集団的労働紛争の予防の観点からは、日常的に労働者の不満に対応できるよう労使のコミュニケーションのルートを複数確保することが望まれる。
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