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中国における集団的労働紛争の現状 (2)
发布时间:2013-10-10

 
Ⅱ 労働紛争の当事者としての農民工
 
1 新世代農民工
 
(1)農民工の基本的状況
農民工とは、戸籍が農村にある農村戸籍者でありながら、都市部で農業以外の産業で就労している者をいい(狭義)、または、農村において第 2次・第 3 次産業に従事している者を含む場合もある(広義)。2010 年において、2 億 4000万人の農民工がおり(広義の農民工)、そのうち都市部へ出稼ぎに出ている者が 1 億 5000万人、農村における第2次・3次産業従事者は8000万人であった。
前述のように、近年、華東・南地域において、労働紛争仲裁の受理件数に占める農民工の事案の割合が高くなっており、都市部における第 2次・第 3 次産業の主力的な労働力として、農民工が重要な地位を占めると同時に、労働紛争の当事者となっている 。
もともと、外地(出身地外の地域)に出稼ぎに出る農民工は、1980 年代初頭の 200 万人から 1989年には 3000 万人に達していた。農民工は、「出稼ぎ労働者」として、短期的・臨時的な労働者とみなされてきたが、中国の都市部における産業の発展と工業化の進展に伴い変化が生じた。
第 1 、農業から完全に離脱し、都市部で「家庭化」の傾向を強めた。つまり、農民工同士で結婚し、比較的長期にわたり、都市部に定住するようになった。2010 年の調査では、出稼ぎの期間の平均は 7. 01年で、56. 7%が累計 5 年以上であり、28. 6%が累計 10 年以上に達していた。そもそも農村部に帰郷しても耕作可能な農地で家族全員が生活可能な収入を得ることが難しく、また、現金収入確保のためにも恒常的に都市部で就労せざるを得ない状況にある。
第 2 、こうした都市部での「家庭化」の傾向は、1980 ~ 90 年代に農村から都市部に出稼ぎ労働者として流入した第一世代農民工(「伝統農民工」ともいう)の両親の下で 1980 ~ 90 年代に生まれた新世代農民工(原語「新生代農民工」)を生み出した。新世代農民工は、一人っ子が中心で、幼少期から都市部で生活しており、現在では、農民工全体に占める新世代農民工の割合は60%を超え、農民工の中心的な年齢層となっている。
 
(2)新世代農民工の基本状況新世代農民工について、近年、いくつかの調査があり、第一世代農民工と比較して新世代農民工の特性が論じられている。まず、教育水準については、第一世代の半数が中学以下であるのに対して、新世代では 3 分の 2 以上が高校以上であり、専門学校の割合が非常に高く、相対的に教育水準が高いといえる。また、出身地外に出稼ぎに出ている農民工が従事している産業についてみると、新世代は製造業の比率が高く、次産業に従事する者も少なくない。月平均収入についてみると、第一世代に対して、新世代はやや少なく、都市部の企業労働者の月平均収入格差が労働紛争の主要な要因になっていると考えられる。他方で、第一世代が収入のうちの大部を農村に送金するのに対して、新世代のその比率は半分未満で、収入の多くを消費に向けていると考えられ、新世代では、余暇にテレビ視聴やインターネット利用の割合が高い。また、労働組合への加入率でみると、新世代の加入率のほうが低い。なお、ある調査では、新世代農民工の 1 日の平均労働時間は9. 2 時間で、10 時間以上労働する者は 28. 5%に達し、月の平均休日は約 3. 5 日とされる。
 
(3)新世代農民工の意識
新世代農民工が出稼ぎに出た理由として、「外の世界を見てみたい」、「お金を稼ぎたい」といったものが多い。就業機会については、半分以上が親戚友人の紹介で見つけており、また、新世代農民工のほうが転職を考える割合が高く、実際に転職率も第一世代より高いといわれる。大部分の新世代農民工が転職しており、そのうち3回以上が少なくなく、「個人の発展の機会を探したい」、「より多く稼ぎたい」といった理由を挙げている。
そして、未婚の女性を中心に、都市への残留希望が高いものの、現実的には、収入が低いため、都市で定住することは容易ではなく、社会保障や子供の教育の問題もあり、既婚の場合には、農村への帰郷はやむを得ないと考えているものと思われる。さらに、半分以上の新世代農民工が都市住民との間の不公平・不平等を感じており、その内容は、社会保障の格差、賃金の格差、公共サービス享受の格差といったものである。
このように、新世代農民工は、幼少期から都市部で生活しているため、第一世代と異なり、そもそも農業に従事した経験がなく(基本的に農業に従事するという意識がない)、教育水準も比較的高く、価値観も多様である。中には、都市で生まれ育ち、都市で長期にわたって生活を続ける意思を持つ者も少なくなく、都市戸籍の同世代の労働者と同じ意識を持つ一方で、戸籍等による差別を強く感じている。労働紛争の背景の一つがこうした格差に対する感情的な問題にある。賃金額については、一企業で対応可能な部分もあるが、社会保障制度などについては、企業だけでは十分に農民工の要求に応えることはできない。
 
(4)新世代農民工の紛争の特性
こうした新世代の農民工は、権利意識も強く、低賃金に甘んじることなく、また、賃金の不平等などにも敏感である一方、忍耐力がないといった指摘がある。最も多いのは、賃金に関する労働紛争であるが、賃上げの要求が豊かな個人の消費生活のためであったり、不平等感の解消のためであったりする場合がある。また、賃金以外の要求も少なくなく、価値観・要求が多様化しているのが、近年の労働紛争の特徴である。「出稼ぎ」から「定住化・家庭化」への傾向を踏まえ、都市住民と同様の待遇や社会保障等に対する要求も高まりつつあると考えられる。
そして、新世代農民工は、物質的な豊かさを享受して育ち、インターネットや携帯電話などのツールでコミュニケーションを図ることに長けており、こうしたツールが集団的な行動を比較的容易にしている側面がある。そして、労働組合への加入率は必ずしも低いとはいえないが、半数以上が組合に加入しておらず、現在頻発する集団的な労務提供の拒否とデモ活動も、労働組合組織のコントロール外で突発的に発生し、個々の労働者が自発的に参加しているものである。
 
2 実習生
 
中国では、専門学校での教育の一環として、製造現場での「実習」が行われている。こうした実習生については、一般に労働法上の「労働者」に当たらないと解されている。実態としては、労働者とほとんど変わらないが、報酬は一般労働者よりもさらに低い。こうした実習生と労働紛争の関わりからみると、一方では、集団的労働紛争に伴う操業停止を回避する手段として、代替労働者となる場合がある。他方では、実習生自身が、まさに労働者と同様に、低い報酬に不満を抱き就労を拒否する場合もある。例えば、広州ホンダでは、実習生が 6 割ないし 8 割を占めていたともいわれている(実習生からそのままその工場に正式に採用される者も多い)。実習生は、形式的には、教育カリキュラムの一環として、特定の企業・職場で「実習」をしており、新世代農民工のように、他の職場に転職するという手段をとることができないため、報酬に対する不満は、時に大きなものとなりうる。
 
3 労働組合
 
(1)中華全国総工会と労働組合
1992 年制定の「中華人民共和国工会法」(以下、「工会法」という)によれば、労働者が自主的に組織した労働者階級の集団組織を「工会」といい、本文は「労働組合」とする。中国の労働組合は、労働者の団体として、労働者を代表するものとされる一方で、日本でいう使用者の利益代表者たる管理職も加入するのが一般的であり、異なる点も多々あることに留意すべきである。そして、この労働組合組織は、全国統一組織「中華全国総工会(AllChinaConfederationofTradeUnions)」(以下「総工会」という)をトップ(指導機関)として、各地の総工会と各産業組合の全国組織を通じて、企業や行政機関に組織を有しており、総工会系の労働組合以外の労働者組織は認められていない。そもそも、憲法上、中国は「労働者階級が指導する労農同盟を基礎とした人民民主」国家であり、少なくとも理論上では、労働者は国や企業の「主人」であって、労使の対立等は存在しないことを目標とする。
実際に、総工会は、国家の政治体制に組み込まれ、事実上一種の官僚組織と化しており、総工会の幹部は政府により任命され、国家目標・利益を重視し、必ずしも労働者の利益の実現のために行動するものではない。また、労働組合の人事系統は党組織に属し、さらに、県級以上の地方労働組合組織の業務従事者は公務員の身分に組み込まれ、国家公務員の待遇を受けているとされる。後述のように、労働者の権利保護が労働組合の活動の主要な内容になったにもかかわらず、こうした伝統的メカニズムにより、労働組合は組織機構の制約を受け、労働紛争の調整に大きな効果を発揮することができないと指摘されている。
 
(2)労働組合の役割
労働組合は、法律上、労働協約の締結主体としての役割を有し、2003 年 12 月制定の「労働協約規定」(「集体合同規定」)では、企業と労働者が労働協約を締結する場合、団体交渉(「集体協商」)の方式を採用すべきであるとし、労働者側の首席代表は、工会の首席が担当する。このように、労働組合は、労働者側の代表としての役割を、法律上、求められている。
ただし、労働組合主席(代表者)は、組合員や従業員の選挙で選出されているわけではなく、その組織の性格を踏まえ、実際にトップに立つのが企業側の者(管理職)であることを考えると、従業員側の利益が十分に考慮されているとはいえないと考えられる。伝統的に都市戸籍の労働者によって組織されてきた労働者組織である労働組合は、もともと農民工の組織化に必ずしも積極的ではない。近年では、農民工問題がクローズアップされるようになってきたことから、農民工への組織拡大を図っているが、農民工自身も労働組合への加入に消極的であり、工会に対する労働条件改善の期待も薄い(これは、都市戸籍の労働者も同様であり、労働組合に対しては、企業の福利厚生担当という認識くらいしかない)。団体交渉制度を前提として、労働組合に労働者の利益代表性を発揮するような法改正が行われているが、現段階では、労働組合が労働者の利益代表の主体として十分に機能していないことが指摘できる。 
 
4 農民工 NGO
さて、既存の労働組合が、労働者の代表者・代弁者・保護者となりうるかについては、前述の通り、短期的には難しいといわざるをえない。こうした労働者の不満を代弁するルートとして、労働組合が機能していないとすれば、他にいかなる組織があるのだろうか。その可能性として、中国における非政府組織(NGO)が挙げられる。既に中国でも、環境保護や被災者支援等の様々な分野で NGO が活動している。労働に関わる分野では、上海や広州などにおいて、農民工や労働者を支援する NGO が存在する。こうしたNGO が、企業の現場で労働者の諸権利についての広報(啓発)活動を行うとともに、労働者の不満をくみ取り、企業との交渉役を務めている。例えば、「労働法」や「労働契約法」が定める権利等を記載した冊子や相談ホットライン(「熱線」)の連絡先を記載したグッズを配布して、農民工をはじめとする労働者の相談を受けている。こうした労働者の権利を守るNGO の活動経費は、企業の社会的責任を名目とした寄付によって支えられているという 。もちろん、これらの組織が、労働者の不満を事実上代弁することが可能であっても、集団的労働紛争解決システムの法的な当事者としての役割を果たすことはなお困難といえよう。
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